2004年度版の「現代用語の基礎知識(自由国民社)」に、「企業の社会的責任[Corporate Social Responsibility]略してCSR」が、「2004年の新語」として登場します。
「CSR」について、「利益の追求だけではなく、企業活動のさまざまな社会的側面においても、バランスのとれた責任を果たすべきだとする経営の理念。」と定義されています。
欧米において1990年代後半から企業の評価基準として定着してきたのが「CSR」です。
日本で「CSR」という語がひろまった背景には、2003年4月から施行された改正商法の影響があります。
この改正商法によって、企業経営の「監視」と「執行」が分離され、アメリカ型のコーポレート・ガバナンス方式が選択できるようになったからです。
即ち、株主である機関投資家の権限強化が進み、株主の支配権が強くなったことから、企業の評価基準としての「CSR」が、機関投資家の間で重要視されるようになったのです。
「CSR」は、「投資家に対する企業の広告宣伝」のための言葉なのでしょうか?
いいえ、そうではありません。元祖「CSR」は、アメリカ伝来の言葉ではなかったのです。
ヨーロッパでは、「CSR」の語は、少し違ったニュアンスで使用されています。
「企業の社会的責任(CSR)」の語は、2004年度版で「新語」として登場しますが、実は、2003年版にも登場してたのです。2003年版では、「フィランソロピー/メセナ」の解説として語られています。
フィランソロピーとは「博愛」や「慈善」を意味する言葉です。
「メセナ」は「文化の擁護」を意味するフランス語です。
アメリカ型のCSRが日本に輸入される前は、ヨーロッパ的な意味で理解されていたようですね。
イギリスのブレア首相は、選挙戦で、「シェアホルダー(株主)」に対する言葉として、「ステークホルダー」の語を使いました。
「株主ではなく、企業の利害関係者である従業員、取引先、地域社会などを重視すべきだ」との考えから、「ステークホルダーコーポレーション」としての日本の企業がヨーロッパでは評価されたのです。
ブレア首相の言葉は、「企業は、社会への「善」をもたらす存在として、政府に代わって新しい役割を果たして欲しいという政府側の期待」と捉えることもできますし、「企業は株主の利益を追求するだけではない」という意味において「アメリカ型CSRへの反発」と受け止めることもできますね。
「日本資本主義の父」といわれる明治の資本家渋沢栄一は、著書「論語と算盤」において「道徳と経済の合一」を説き、養育院や赤十字などの社会貢献活動を行いました。「博愛・慈善」という意味においてヨーロッパ型のCSRに通ずるものがあります。
江戸期の企業家の「CSR」は、どのようなものだったのでしょうか?
戦後の資本家たちによるCSRが「株主主権型(アメリカ型)」、明治期の資本家のCSRが「給付型(ヨーロッパ型)」だとすれば、江戸期の資本家のCSRは「雇用創出型」だと、私は思うのです。
「雇用創出型のCSR」とは、近江商人の「諸国産物廻し」や「お助け普請」の事業例から着想を得た言葉です。
「お助け普請」とは、飢饉や災害発生などの困窮時に屋敷の普請などの大工事を行うことで、生活困窮者に働く場を提供しようとするものです。
「諸国産物廻し」は、原料生産地と加工地とを結びつけることで、地方の産業発達に寄与しました。
いずれも「人々の働く場を提供することで、豊かになってもらい、社会全体が豊になるようにする」という発想からくるCSRです。この発想のベースとなる精神が、小倉榮一郎氏が説く「三方よし」だと思うのです。
江戸期の商人が行ったCSRは、働くために生かされた百姓身分であるがゆえの発想であり、自由な社会に生きる我々にはナンセンスにうつるかもしれません。しかし、「働くことに、自身の存在意義を見出そう」とする人がこの世にいる限り、今日の社会でも通用する発想だと、私は考えます
株式が上場されている企業は、「所有と経営が分離」されています。
しかし、「企業間で株式持ち合いが行われている」というのが日本企業であり、株式持ち合いによって繋がれた企業の経営者たちは、それによって担保された株式を背景に、自社内で非常に強い権力を持つことが出来るのです。
強い権力を有するにもかかわらず、経営に対する責任の所在があいまいであるため、経営者による様々な不祥事が明るみになっては、その責任追及の行く末がニュースにもならないまま、人々の記憶から消え去っていきます。
このような背景から、他の利害関係者に対して株主の権利が優先するアメリカ型のガバナンス方式が、日本でも取り入れられるようになった訳ですが、そもそも、経営者の方々が、労働者(百姓)の視線に立ち「元祖日本型CSR」を実践してゆけば、アメリカ型のガバナンス方式を採用する必要はないのではないか、と私は考えます。
株式会社IPフォークロアは、「元祖日本型CSR」を実践したいと思っております。